【北海道視察2】泊原子力発電所の現状と展望
8月7日、泊原子力発電所PRセンターにて、同発電所の安全対策、荷揚場新設の概要、地域の受け止め状況などについて学びました。
<泊発電所の概要>
◆北海道電力の発電所
・北海道内の発電出力として原子力シェアは25%(発電所は他に水力、火力、地熱、太陽光がある)。
・発電電力量として東日本大震災前の2010年度は原子力が4割以上を占めていたが、震災直後は火力が8割を賄っていた。
・2012年度以降FIT制度(固定価格買取制度)導入後は、火力が6割、再生可能エネルギーが4割という状況にある。
(北海道はすでに2030年に国がめざす再エネ割合に到達している)
◆泊発電所
・1号機、2号機が1989年、1991年に運転開始、3号機は2009年に運転開始(いずれもPWR;加圧水型原子炉)
・3号機における新規制基準審査について、基準地震動と津波高の評価に際し活断層の可否や津波高が審査当初の倍の評価等のことから対応に12年を要した。
・3号機において安全対策工事はおおむね完了しており、新設防潮堤の設置等残る工事については、審査結果を踏まえ適切に対応をしている。
◆安全対策の考え方~新規制対応への四つの柱~
・自然現象などから発電所を守る(敷地浸水対策、建屋内溢水対策、森林火災対策)
・電源を絶やさない(外部電源ルートの多重化、常設及び移動可能なバックアップ電源追加)
・炉心を冷やし続ける(水を供給するためのポンプを多重化・多様化)
・重大事故に備える(水素爆発を防ぐ、放射性物質拡散抑制、重大事故時対応拠点整備、継続的な訓練の実施)
◆シビアアクシデント(SA;重大事故)に備えた体制の整備
・シビアアクシデントに備え、専門チーム「SAT」を創設。メンバーは自衛隊員を採用(OB含む)している。再稼働後は24時間体制で発電所構内に待機する。
・SAT要員を含めた事故対応を行うすべての要員に対する事故対応のための教育訓練を行い、必要な力量確認を継続的に行う。
<荷揚げ場新設の概要(泊発電所敷地外での核燃料物質等の輸送・運搬)>
◆新設への経緯
・泊発電所は核燃料物質等の荷揚げ専用港を有しているが、津波発生の際その到達までに十分な余裕をもって退避することが困難である事が判明。
・係留(ロープや鎖でつなぎとめて固定すること)対策を検討するも、技術的に難しいため、「燃料等輸送船を泊発電所専用港に入港させない」ことの方針とし、規制委員会に説明。
・3号機の再稼働後、一定期間は新燃料の搬入や使用済燃料等の搬出を行わなくても運転が可能だが、将来的には必要であるため、敷地外に新設荷揚げ場を設置し、核燃料物質等の輸送・運搬を行うことを公表。
◆新設工期等
・概略設計として、3号機再稼働後に工事を開始することとし、新設地区近傍の海域・陸域ボーリング調査及び海域の音波調査を含め、数年かけて建設。
・仮に港建設が遅れてしまった場合は新燃料の搬入ができないため、運転の継続ができないことになる。
◆専用道路の用意
・新港から発電所への輸送物の輸送・運搬は泊発電所専用の道路とするため、一般車両の利用は不可。
・国道等既存の道路に影響を与えないよう、トンネルの施工や大きく迂回する設計とする。
◆避難道路開通
・津波警報等による避難の際には発電所の横を通る国道229号線が利用されるが、渋滞が起こることから、昨年の春に山の麓を通過して国道5号線に繋がる避難道路が完成。(当然この道路にも影響しない設計である)
<質疑応答>
質問1
津波発生時作業されている方の行動等時間を含めどのように把握されているか。
回答1
作業中の津波発生を想定した訓練を実施し、作業をやめてその場から逃げることについて実証している。
質問2
津波発生が伴う震源はどの辺になるのか。
回答2
北海道の地図をみて、日本海側(地図上左)の日本海東縁部の断層がずれる可能性を捉えている。
質問3
特重施設はどのような状況か、またテロへの対策は。
回答3
BWRは再稼働の際フィルターベントが必須条件であるのに対し、PWRは格納容器が大きいことから水素再結合器を格納容器内に収めることで、フィルターベントは特重施設設置でよく、設工認の認可が出てから5年以内に完成するよう要求されているため、それまでに造ることになっている。
テロ対策としては、中央操作室が使えなくなった場合でもコントロール可能な設備の設置が必要で、その際、航空機アタックによってすべてが失われることがないように、設備を山に寄せるあるいは地下に位置するなど検討をしている。
質問4
東日本大震災以降の原子力に対する住民の受け止めをどのように捉えているか。
回答4
震災直後は当然不安の声が多くあった。新規制基準の審査を受けながら、地元4町村とのコミュニケーションも進めてきており、地元の方々からは比較的理解をもらえているが、道内全体とまでには至っていない。
4町村自治体首長は、資源エネルギー庁政策統括調整官から再稼働への理解を求められており、4町村とも「地元の声を聞きながら判断する」とのスタンスにある。
北海道電力としては1号機運転開始以降30数年間少しずつ信頼関係をつくってきており、4町村首長からは理解いただいているとの感触にある。
質問5
道民はブラックアウトを経験したことから、エネルギーミックスや原子力の必要性を理解されているか。
回答5
エネルギーミックス等の理解は一般的にも難しいが、防災に対する意識は強くなったようである。電気や水の大切さ、公共インフラに対する意識も高まっていると思われる。
質問6
1,2号機はどのように進んでいるのか。
回答6
2030年代の前半に再稼働を据えており、1号機2号機とも活用してまいりたいと考えている。
質問7
新設される荷揚げ場建設における地元とのかかわり方は。
回答7
設計段階のため詳細はまだであるが、地元活用は現在発電所構内の工事(防潮堤含む)と同様に考えている。
泊原子力発電所は、東日本大震災前には北海道エリアの発電電力量の44%を担い、まさしくベースロード発電としての役割を果たしてきました。
現在は1~3号機全て運転停止していますが、再エネの比重が39%と高く、既に国のエネルギー基本計画における目標(2030年に36~38%)に達していることに驚きます。
先行して再稼働を目指す3号機は2009年に運転開始したばかりの、国内最新の原子炉であり、新規制基準に適合する安全対策を着実に進めています。
加圧水型軽水炉(PWR)は原子炉格納容器の容量が大きく、水素爆発のリスクが低いことから、沸騰水型軽水炉(BWR)のようにフィルタベント設備を要しないことは、それぞれの型の大きな違いです。
住民の受け止めには地域差があるようですが、2018年の地震(平成30年北海道胆振東部地震)によるブラックアウトを経験し、泊原子力発電所の再稼働を受け入れる心情が強いのではないかと思います。
新設する荷揚場は、核燃料物質等の搬入専用港を、津波の影響を受けない敷地外に新設するものであり、広大な北海道らしい壮大な安全対策だと感じました。
視察を通して、新規制基準が求める安全対策について理解を深めることができました。
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