原子力防災セミナー「放射線リスクを知る 原子力災害時にとるべき行動」
6月22日、柏崎市主催の原子力防災セミナー「放射線リスクを知る 原子力災害時にとるべき行動」に参加しました。
講師は原子力規制委員会委員の伴信彦氏でした。
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福島第一原子力発電所(福島1F)事故後、規制委員会が設立された。
安全基準を大幅に改正、日本の原子力発電所の安全水準向上に努めている。
新規制基準により原子力発電所の事故は起こりにくくなった。
しかし、物事に「絶対」はない。
「事故は起こり得る」との前提で備えている。
事故が起きたら?
原子力事故は想像力にかかっている。
次に起こることを最大限に予測して行動することが重要。
本日の講演が、自身の想像力を働かせるきっかけとなるよう願うところである。
講演内容は3点
〇原子力災害時の放射線防護対策
(事故が起きたらどのように身を守るか)
〇屋内退避の運用屋内退避の運用に関する検討
(原子力規制委員会の検討チームでの議論の概要)
〇原子力防災の基本的考え方
(原子力防災のそもそもの考え方について)
<原子力災害時の放射線防護対策>
原子炉の中には大量の放射性物質がある。
通常は閉じ込められているが、何らかの理由で放射性物質が放出→放射性プルーム=雲状
外にいれば外部・内部被ばくが考えられる。
身を守るには
①事前避難
・放出前に遠くに逃げる=ある意味でいちばん確実
②屋内退避
・建物の中に入る=放射性物質は室内に入ってこない
・建物の表面からの外部被ばく被ばくを防ぐ
・家屋のすきま、開口部から一部入るかもしれないが、最近の家屋は気密性高いので進入はごく一部
・外壁には一定の遮へい効果はある
・木造家屋でも半分には減らせる
◆なぜ避難しないのか?→福島1F事故の教訓
東日本大震災の「災害関連死」
・福島、宮城、岩手を比較すると福島があきらかに多い(後まで尾を引く)
・宮城、岩手・・ほとんど関連死はない
災害関連死=避難の途上で亡くなり、災害との関連が認められるもの
*弔慰金の関係でカウントされる
(弔慰金の申請ができない一人暮らしの高齢者など、もっと多くの方々が災害後に亡くなっている可能性はある。)
◆なぜ「関連死」が起きたのか
・福島の関連死の多くは高齢者、入院患者
・無理な避難により死亡→移転後に健康状態が悪化
◆避難と移転の違い
・避難→危険から逃れるために一時的に移動すること。危険が過ぎれば元の場所へ戻る。
・移転→居住地が変わる
福島では当初は避難のはずが移転になったケースが多数ある。
→いずれ戻りたい人も居住地を変えて数年間=移転
◆教訓
・避難・移転は最小限に留める=災害弱者への配慮が必要
・これを前提に原子力災害指針が組み立てられる
PAZ(予防的防護措置) 5km以内
UPZ(緊急時防護措置) 5~30km
事故時の放射線量は距離に依存する。
◆どういうタイミングで避難するのか?
事故には色々なパターンがある。
原子力発電所は異変時には「止める 冷やす 閉じ込める」
①炉停止後に徐熱昨日が一部消失=警戒事態:AL
②全ての徐熱機能が喪失=施設敷地緊急事態:SE
③格納容器温度が最高使用温度に=前面緊急事態:GE
④格納容器が破損=大規模放出
・AL、SE、GEの3段階に分かれた場合、大規模放出より前=GEのところで避難や屋内退避する。
・必要な準備はSEの段階→GEになったら避難する。
・高齢者、傷病者、妊産婦 さらに前の段階 =要配慮者等はAL段階で避難。
⇒これが現在の原子力災害対策指針
◆もう一つの防護対策
安定ヨウ素剤の配布・服用=内部被ばく対策
PAZ=丸剤またはゼリー剤を事前配布⇒避難実施時
UPZ=規制委員会が要否を判断(基本的には不要)⇒別途指示途中で避難になった場合
妊婦、授乳婦、未成年者を対象とする。
★40歳以上は基本的に不要
(理由)
甲状腺がんの調査結果によれば、子どもの頃に一定の被ばくをすると増えるが、大人の場合は発症が少ない(微小=治療対象にならない)=知見としては子どもの被ばくが中心となる。
★安定ヨウ素剤がなぜ有効?
・通常は食事から非放射性ヨウ素を取り込む(昆布など)
・血中から甲状腺に取り込まれ、取り込まれないものは尿として排出
・放射性ヨウ素を取り込むと甲状腺にたまる=内部被ばく
安定ヨウ素剤を放射性ヨウ素が来る前に服用すれば血中の非放射性ヨウ素の濃度が上がり、先に甲状腺にたまり取り込む余力がなくなる=甲状腺に入る放射性ヨウ素を抑える。
大事なのは「タイミング」
→放射性ヨウ素を取り込む1日前~2時間前
あくまでも放射性ヨウ素による甲状腺被ばくを少なくするものであり、他を取り込まなくする魔法の薬ではない。
<屋内退避の運用に関する検討>
検討チーム
・きっかけは女川地域での意見交換時に地元から指摘
・原子力災害指針ではGE屋内退避というが、いつまで続くのか、解除はいつか
→持ち帰り、委員会で供給し、検討する会議体 検討チームがスタート
・事故時の原子炉の状態とリンクさせる必要
→原子炉がどういう状態になったら屋内退避か そもそも論からスタート
・内閣府 自治体(宮城、敦賀市)、外部有識者により令和6年に9回会合
・成果物として報告書とQ&Aを作成
★そもそもの問題意識
①屋内退避の開始時期や範囲を柔軟に調整できないか
・GEになってから大規模放出まで少なくとも1日 追加対策をうてばさらに延びるかもしれない
・早すぎるのではないか?
②何日間屋内退避するのか
・どうなったら解除?
・避難への切り替えは?
・屋内退避中は外出できないのか?
→具体的な答えを議論により決めた。
★開始時期や範囲を柔軟に調整できないか検討したが・・
「GEの時点でその後の展開は予測できない」
→放射性物質の放出に至る時期や規模は予測不可能。
したがって、UPZ全域で一斉に屋内退避するやり方は維持されることとなった。
GE判断する指標・条件については見直しが必要。
→ふさわしい指標条件をセット(見直し)することになった。
◆何日間続けるか
・重大事故対策(電源車、ポンプ車等)の準備を一定程度機能させて、原子炉の状態を確認するまでは数日間かかる。
・防災基本計画(自然災害なども含む)では最低3日間の備蓄を推奨→特段の事情がなければ3日間は屋内退避を継続。
・その後は継続の可否を日々判断→物質の供給・人的支援の提供が鍵となる。(今後詰めるべきポイント
◆どうなったら解除されるのか
・放射性プルームが過ぎ去ったことを確認(プラントが安定して、新たなプルームが来ることはない)
→モニタリング値および原子炉施設の状態に応じて判断する。
◆屋内退避から避難への切替え
・生活の維持が近内(本来は屋内退避を継続したい)
→モニタリング値がOIL1(1msv)を超えた場合
〇生活の維持の可否:慎重な判断が必要
〇既存の避難計画を参考に避難を実施
◆屋内退避中は全く外出できないのか
・屋内退避=放射線に被ばくしないようにすることが木庭
・放射線以外の健康影響
→生活の維持に最低限必要な外出(飲食、ライフライン、医療など)はOK
(健康リスクを最低限にする)
<外出OKの具体例>
・必要な物資の調達
・緊急性の高い医療を受けるための外出
・雪国での除雪(屋根、出入り口)
・動物飼育 など
★いざというとき屋内退避に戻れるようにしておく。
★屋内退避に戻るタイミング
→フィルターベント(意図的に放射性物質を放出するが微量に抑える)実施時
・数時間の余裕がある。
・アナウンスがあったらすぐに戻れるようにする。
<原子力防災の基本的考え方>
・平成30年 原子力規制委員会で事前対策において参照すべき線量の目安を決定。
・想定する事故に対して一般公衆の被ばくが100msvを超えないように防護戦略を策定。
・計画時にはやみくもにあれこれをやるのではない。
・想定する事故に対して達成すべき目標は何か。
「想定する事故」=備えておくことが合理的と考える事故
→放出量、放出タイミングを決める:その目標が100msv
・この前提で原子力災害対策指針 目標達成できる。
★目標と想定はセット
→想定を大きく上回る事故の場合は、そこにこだわる必要はない。
=100msvを超えて被ばくすることもあり得る。
この考えに対する批判はある。
「最悪の事態を想定して、それを前提にした緊急時計画をつくるべき」
答えはNO。その理由は・・
・最悪の事態は定義できない。
・どんな事故に対しても万全と考えるのは防災神話。
・あるリスクを減らせば、他のリスクが台頭する。
・リスクの大小関係は状況によって異なる。
★安全神話と決別したはずなのに、防災神話に頼るのはあり得ない。
ひとつの基本形をつくった。
=想定しておくことが合理的と考える事故(それでも極端な事故ではある)
実際の事故は何が起きるかわからない。
状況に応じて最善の策をとる。
★あるリスクを減らせば別のリスクが台頭する。
避難のリスクVS放射線リスク(福島1F事故)
・避難それ自体が危険をはらむ。
・被ばくを防ぐために避難したのに、避難先で十分なケアを受けられず死亡。
老人の集団を解析した結果
1 南相馬市 事故前(震災前)
2 南相馬市 事故後 死亡ペースが速くなる
3 相馬市 避難せず 震災前
4 相馬市 避難せず 震災後 あまり変わらない
・80歳の女性が被ばくした場合、スケールをあわせると避難によるリスクは高い。
・仮に避難しなくても被ばく線量は100msvには達しなかった(結果論)
★避難するのはやめた方がいいのか?→時には必要
・福島の事故後の避難は何の準備もしていなかった
・準備した段階で避難はあり得るが要配慮者への措置を強化すべき
それでも高齢者避難は慎重を期すべき
若い人だったら?(放射線の感受性高い)
0歳児 がん罹患数 無がん生存率
(がん以外の理由で亡くなる人を除く)
・被ばく後すぐではなく、中年期以降(広島、長崎の疫学調査)に発症。
・赤ちゃんの放射線対策が常に最重要かといえば、そうとも言えない。
・赤ちゃんもまた災害弱者=誰かが面倒をみなければならない・・移動後の手厚い保護が必須条件。
→やっぱり避難はリスクを伴う
言えることは・・
放射線被ばくを避けようとして手を打つとしても、手段そのものがリスクをはらむ。
◆複合災害ならどうする?=さらなるリスク
複合災害への対応
・防災基本計画「人命の安全を第一」
・自然災害に対する避難行動を優先する(津波による高台避難など)。
一方、原子炉GEの場合はUPZの人はどうする?
・まずは津波から身を守ることを優先すべき。
・津波の危険が過ぎ去ったら放射線のことを考える。
結局のところ、地震、津波、洪水など自然災害はリスク高い=その瞬間に命を奪う。
一方、放射線は瞬間的なものではない。
通常は自然災害リスクの方が高い。
→激甚化するほど放射線リスクの優先度は下がる。
検討チームでの批判
・能登地震のように道路損壊、建物倒壊 避難も屋内退避もできないと言われる。
「確かにそうだが、ちょっと待ってほしい」
・避難・屋内退避以前の問題
→自然災害の際には災害弱者にとって致命的な状況=社会として対処すべき。
避難・屋内退避は手段でしかない。
→大事なのは命の危険から身を守ること。
・集落の孤立、雨風しのぐ場所がないというなら、そこへの対策は当然。
「木を見て森を見ない」のであってはいけない。
・避難・屋内退避できない=木
・命を守る=森
避難・屋内退避できないから一貫の終わりではない。
→放射性被ばくを少なくすることが目的
◆防護対策にはリスクを伴う。
・屋内退避していれば高齢者は死ななかったのかといえば、その限りではない
・ある病院では入院患者が亡くなった→スタッフ不足 十分なケア・医療を提供できなかった。
→つまり、災害弱者は生活環境の急変が危ない。
・特定のリスクにだけ注目すると判断を誤る。
原子力災害時にはどう行動すべきか 国が状況をみて判断する。
→最終的には、ひとりひとりが自分の身を守るために考え、行動することが重要。
<質疑応答>
Q1 能登半島の復興は遅れている。障がい者は環境変化に弱く避難は困難である。自宅に留まる中で、障がい者施設への入居ニーズが高まり、業務継続を支援した。屋内退避は現実的な判断だが、その場合の安心感として外の状況がわからないと、不安が増す。広報どう考えるのか。
A1 国の対応がうまくいっていない(復興)。今どんな状況かわからないのが不安。福島の反省。できるだけ今何が起きているのか的確に伝えることが重要。 屋内退避している人に対する「間違っていない。それでよい」というメッセージを発することが必要であり、今後の課題。
Q2 屋内退避=籠城のイメージだったが、放射線を浴びないようにし、コロナ禍を参考に最低限の生活を維持するということでいいのか。
A2 そのイメージでよい。
Q3 今日の話は放射能被害を無視している。福島甲状腺がんの原因をどう考えるのか。
A3 基本的に専門家の多くと同じ見地であり、放射線被ばくが原因とは考えがたい。甲状腺がんと診断される子が増えているというが、基準は何か。徹底的に数十万人の子への検査を事故前に行っていない。がんになった子の線量はそれほど高くない。どう評価しても高くない。知見とあわない。何が違うのか。専門家は検査を徹底的にやっているために発見が増えている。それを納得できないというのだろうが、専門家の見地はそうである。学校に携帯を持ち込ませない。あるクラスで全員調べたら、半数カバンに入っていた。別のクラスは「ひとり」しかし調べてはいない。それと同じである。
Q4 戦争リスクをどう考えるのか
A4 武力攻撃、軍事攻撃についてであろうが、原子力安全の範疇には入っていない。戦争起こらないようにしていただくしかない。別の枠組みで最善を尽くすのみ。
Q5 南相馬市の避難リスク 避難しなかったがケアするスタッフが足りず亡くなったという話だが、ではどうすればいいのか。
A5 放射線を恐れて出勤できなかったわけではなく子どもを見る人がいなかった。緊急時の人的対応は課題であり、一気に解決できる問題ではない。
Q6 あらためて柏崎に住むリスクを感じる。傘かテントの中で膨大な放射性物質を受けるしかない。避難計画できないということ。発電所を動かすこと前提ではないか。
A6 特定リスクにのみ着目すべきではない。
Q7 意見を国に挙げる気はないのか。外部・内部ひばくの問題どう考えるのか。
A7 内部ひばくより外部ひばくが危険ということではない。線量の問題である。
(以上)
非常にわかりやすく、誠実なご講演でした。新規制基準が適合された原子力発電所は、事故を起こさないよう厳重な安全対策を施していますが、ゼロリスクではないことを前提に、原子力災害対策指針が定められています。
その基本的な考え方は、フィルターベントにより微量には抑えるものの、放射性物質を放出する場合があることを想定し、余計な被ばくをしないよう、原子力発電所からの距離に応じて「取るべき行動」を決めておくというものです。
また、複合災害においては、先に対応すべきなのは自然災害であり、原子力災害は即時に起こるものではないことも踏まえて、行動することが大切だと再認識しました。
このような機会を設けていただいたことに感謝しつつ、私自身も引き続き、正しい知識を身に付け、自らが周知・啓発できるよう心掛けたいと思います。
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