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2022年8月 9日 (火)

【委員会視察2】埼玉県富士見市「子どもの貧困対策」

8月8~10日、文教厚生常任委員会による行政視察を行いました。
委員会では「子どもを取り巻く環境の充実」をテーマに
●子どもの貧困対策
●いじめ・不登校対策
について、調査・研究を行っています。

8月9日は埼玉県富士見市の子どもの貧困対策について学びました。

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◆富士見市の貧困対策
・前市長時代から「子育てするなら富士見市で」をキャッチフレーズに掲げている。
・平成28年度に貧困に関する実態調査を行い、平成29~令和3年度の5か年計画として、「夢つなぐ富士見プロジェクト⁺(プラス)~富士見市子どもの貧困対策整備計画~」を策定。
・子どもの未来応援センター設置、子ども未来応援ネットワーク会議の立ち上げ、子ども未来応援基金の創設、子どもや若者の居場所づくり支援など、子どもの貧困に対する整備を着実に進めてきた。
・現市長の強い意向もあり、「富士見市に住むすべての子どもが、夢に向かってチャレンジできるよう支援を行い、貧困の連鎖を断ち切る」ことを基本理念として、全市で貧困対策に取り組んでいる。
・令和4年度からは計画の延長版を策定し、これまでの事業内容を継続・拡大・修正し、今後3年間に取り組むべき事業を定めている。
・貧困対策専門のコーディネーターを配置している。

◆子ども未来応援センター
・子どもの総合相談窓口として、社会福祉士や保健師などが妊娠期から子育て期にわたる相談・支援を行っている。
★母子保健関係
妊娠、出産、子育て、子どもの食事、助成制度など
★子どもや若者の相談・支援
子どもの養育や生活等、若者のための学び直し相談、養育費相談、シングルマザー交流会など
・チラシにはあえて「貧困」は明記せず、利用しやすいよう配慮している。

◆貧困への気付き
・妊婦の全数面接により育児環境を確認。母子健康手帳を渡す時、ひとり親、生活困窮、精神疾患、若年など、貧困の要素が強いケースを把握する(気付きのランプ)=スクリーニング。
・出産後の乳幼児健診でも状況を確認。
・自らの貧困状態を気付かれたくない人たちをキャッチするのは難しい。
 ⇒あらゆる機会を見逃さない・・「気づき・つなぐマニュアル」の作成

◆「気づき・つなぐマニュアル」(H29年~)
・貧困の発見ポイント(気付きのサイン)を細かく明記し、支援につなぐ。
行政窓口・相談、子どもが利用する施設、地域、学校、保育園・幼稚園、児童発達支援事業、医療機関など、それぞれの場面で見られる貧困の兆候を紹介。
・具体的に明記したことで必要な視点がイメージしやすくなり、相談・連携につながっている。
・つなぐ先は、行政・関係機関、地域団体、NPO法人、民間・企業⇒連携して支援する。

◆支援内容
・生活困窮家庭に対する物質的、経済的支援を行う。
・生活困難な子どもに対する居場所(子ども食堂・学習・進学等)支援を行う。
・生活困難な家庭の保護者への就労支援等を行う。特に生活困難を抱えることが多い「ひとり親家庭」への支援に重点を置く。
・まずは子どもの貧困状態を理解(情報提供、説明)
⇒地域全体で支援⇒市民運動に広げ、市全体での協力体制を確立。

◆富士見市子どもの未来応援ネットワーク会議
・子どもの貧困対策に正面から向き合おうとする民間企業・NPO・町会などの地域組織や団体、および行政が一体となった『子ども未来応援ネットワーク会議』が発足。
・貧困の連鎖を断ち切り、すべての子どもたちが夢に向かってチャレンジできる社会の構築を目指して、子どもの貧困対策推進に向け活動している。

◆子どもの夢つなぐ市民活動☆ふじみ
・市長を発起人として各業界団体が参画し、市民運動としてサポーターを募集。
・個人・団体がそれぞれ、できることをできるかたちで協力することで、裾野の広い活動が行われている。

サポーター登録申込書の「参加できる活動」リスト
① 物品(食料品・文房具・医療品等)の提供
② 場所(子ども食堂、学習支援、物資倉庫等)の提供
③ 労働力(調理・学習・送迎・見守り等)の手伝い
④ 体験活動(分化・スポーツ・就業体験等)の機会の提供
⑤ 金銭の寄付(募金寄付・その他の募金等)
⑥ 子ども・若者の居場所づくり(子ども食堂、学習支援等スタッフ)
⑦ 広報・PR活動(宣伝・配布等)
⑧ その他の社会貢献活動

◆子ども未来応援基金
・子ども食堂や学習支援等、子どもや若者の居場所づくり活動を行う団体等の事業(準備、運営)に対し助成を行う。

◆今後の方向性・課題
・前計画での新規事業28の達成度は想定以上6、概ね達成21、未達成1
・令和7年度に「子ども・子育て支援事業計画」を更新時に、貧困対策整備計画を統合。それまでの3年間は、延長版として事業内容を見直し、新たな取組を盛り込み、計画を継続する。
・未達成1は生活支援物資供給センター(集積・保管場所)の整備。ただし支援物資のステーションは設置したので物質提供は可能。今後3年内に保管場所を整備したい。
・気づき・つなぐマニュアルの改訂・・現在は貧困に特化しているが、虐待やヤングケアラーの視点も取り入れる。
・子ども食堂はコロナ禍で弁当配布など形を変えて事業を継続しているが、居場所としての運営が難しくなっている。⇒学習支援事業とのコラボレーションにより、お腹だけでなく心も満たす場所を目指す。

◆貧困の連鎖を断ち切るために
・貧困の連鎖は、保護者の収入が少なく十分な教育を受けられない子どもが、進学・就職に不利になり、夢を描けない状態に陥ることで生じる。
⇒学習支援(塾講師を支援員として委託)のほか、高校生(不登校・中退)に対する「学び直し相談」により、高校復帰や再度の進学をすすめる。

◆ひとり親世帯に対して
・富士見市内のひとり親世帯は41.8%。養育費相談に加え、離婚準備段階でのサポート(生活基盤をどう築くか)、教育費の補助等を行う。
・生活困窮に陥る前の段階で支援する。

【質疑応答】

質問1 
富士見市が貧困対策に取り組むきっかけは。
回答1 
平成25年に制定された「子どもの貧困対策に関する法律」における地方公共団体の責務を具体化し、国が策定した「子どもの貧困対策に関する大綱」等を踏まえ、国の動きを見ながら、市長の強い想いも受けて推進してきた。
まずは実態調査の段階で、生活困窮層と一般所得層に分けて調べたところ、生活困窮層は援助を受けてもまだ不足し、一般所得層の中にも生活困難世帯があることがわかった。目に見えるアプローチだけでは不十分であり、整備計画をつくり施策を推進。

質問2
 学び直し相談の詳細は。
回答2
高校を中退もしくは不登校の生徒を支援するNPO代表(塾も経営)が相談員を務める。生徒自らが相談に出向くことは難しく、保護者がお子さんの将来を心配して連れて来るケースが多い。
以前は月1回、夕方~夜にかけて4コマだったが、今年度から平日の夕方2コマ、土曜昼2コマに変更し、相談者が増えている。高校に復帰するケースが多い。
内容は学習支援ではなく、将来の進路を考える上での助言であり、子ども達が自ら再び高校に行けるようにサポートしている。学習機会の喪失を貧困への入り口として捉え、貧困に陥らないよう支える仕組みともいえる。

質問3
実態調査の詳細は
回答3
平成28年7月に0~22歳がいる世帯に対して実施。
生活困窮世帯(公的扶助を受けている世帯)1614件中、回答816件(50.6%)
一般所得世帯 1495件中、回答888件(59.4%)
全体で3109件中1704件(54.8%)が回答

質問4
貧困家庭と学校の連携は。また夢つなぐ市民運動による各種支援により、民業圧迫の問題はないか。
回答4
学校から家庭内のことは見えにくいが、困り事がありそうな場合は子どもの未来応援センターにつないでもらう。
市民運動による物資支援は対象者が児童扶養手当を需給しているひとり親世帯に限定されるので民業圧迫の問題はない。むしろスーパーがフードロス対策も兼ねて期限の近い食品を寄付するなど、民間業者も協力的である。

質問5
民間業者の協力など、全市的に貧困対策に協力しようという気運はどのように醸成されたのか。
回答5
現市長の熱意が大きい。当初は子どもの貧困に対する市民の問題意識は決して高くはなかったが、市民運動準備会で市長が自らプレゼンテーションを行い、必要性を訴え、施策を地道に推進してきたことで、市民運動として広がっていった。ネットワーク会議も機能している。

質問6
いわゆる絶対的貧困と相対的貧困の問題についてはどう認識しているか。
回答6
外見的にわかりにくい貧困に気づき、支援につないでいくという意味で、相対的貧困を視野に入れて施策を推進している。

質問7
コーディネーター配置による効果は。
回答7
子ども未来応援センターは総合相談窓口であり、貧困問題だけに専念できない。コーディネーターを配置するようになり、多業務とのバランスをうまくとれるようになり、個々の貧困対策の取組みが前進した。コーディネーターには教育者、公民館勤務経験者などを配置してきたので、地域と関わるスキルが高い。

質問8
気づき・つなぐマニュアルの策定経緯と今後の強化版の進め方は。
回答8
策定経緯は当時の担当者がいないので不明だが、関係各課から策定委員を選出し、内容を厚くしていったのではないかと推察する。今後の強化版は要保護児童対策地域協議会から意見をいただくが、すでに家庭福祉審議会から意見をいだだくなど、関係者の意識は高い。

質問9
富士見市の子育て支援策の成果として子どもの人口は増えているのか。
回答9
現時点で詳しいデータはないものの、人口はいまだ微増であり子どもの数は減っていない。

質問10
全庁的に子どもの貧困対策のグランドデザインをつくる仕組み、再度の実態調査について。
回答10
庁内での検討機会があり、各課がPDCAサイクルをまわしている。
実態調査は国が示した様式をもとに、令和7年度の「子ども・子育て支援事業計画」への統合を視野に入れ、令和6年度に実施したい。

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【所感】
 富士見市は「子育てするなら富士見市で」を前市長時代からキャッチフレーズとし、充実した子育て・教育施策を行っている。その中でも子どもの貧困対策は、現市長が強い想いを込めて推進しており、実態調査を経て「こどもの未来応援センター」を中心に、非常に細やかな支援体制が確立されていました。「気づき・つなぐマニュアル」などの媒体も素晴らしいと思います。
 また、民間企業・NPO・町会などの地域組織や団体、行政が一体となった「子ども未来応援ネットワーク会議」を中心に、「子どもの夢つなぐ市民運動☆ふじみ」として展開し、市民が「できることをできるかたちで」協力・応援しています。
発足準備会では市長自らプレゼンを行い、貧困対策の必要性を強く訴えたとのことです。
 そして、貧困の連鎖を断ち切るためには「教育」が必要という考えのもと、民間の塾講師等に委託して学習支援事業や「学び直し」事業を行っていることも印象的でした。
 柏崎市においても年度内に貧困の実態調査が行われる。「相対的貧困」と言われる見えにくい貧困や、将来的な貧困につながる教育機会の喪失も視野に入れ、どんな境遇に生まれても、子ども達が将来に夢を持てるような施策の推進を願います。

ご対応いただいた富士見市議会事務局および担当の皆様、ありがとうございました。

 

 

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