【委員会視察1】埼玉県入間市「ヤングケアラー支援」
8月8~10日、文教厚生常任委員会による行政視察を行いました。
委員会では「子どもを取り巻く環境の充実」をテーマに
●子どもの貧困対策
●いじめ・不登校対策
について、調査・研究を行っています。
8月8日は埼玉県入間市のヤングケアラー支援について学びました。
◆ヤングケアラー支援の現状
・入間市では令和4年7月「ヤングケアラー支援条例」が制定された。背景には令和2年10月に就任した杉島市長の公約があり、埼玉県が先行して令和3年3月ケアラー支援条例(介護者全般が対象)を制定したことを受け、ヤングケアラーに特化した条例を制定。
・条例制定にあたり実態把握を行い、周知・啓発を推進し、相談支援体制を確立している。
◆ヤングケアラー実態調査
・ヤングケアラー支援条例制定にあたり、令和3年7月に実態調査を行い、小学生141人(5.7%)、中学生79人(4.1%)、高校生40人(4.8%)のヤングケアラーが存在する結果となった。
・実態調査を行う前に児童・生徒に「お手伝いとケアの違い」解説動画(日本ケアラー連盟のイラストを子ども支援課職員が説明)を見せた。調査はタブレット端末またはスマートフォンによりWebアンケートを無記名で行い、全体の回答率は52.6%だった。
・入間市のヤングケアラーがケアをする対象は「きょうだい」が最多であり、次いで母親、祖父母が多かった。ケアの理由として小学生は自分の意思で、中学生は仕事で忙しい親に代わり必要に迫られて行っている、との傾向が見られた。ケアに費やす時間は平日・休日とも1時間未満が最多だが、休日に2時間以上ケアしている傾向が見られた。
・日常生活への影響は「なし」と回答する児童・生徒が多かったが、一方で「ストレスを感じている」「勉強する時間がない」「睡眠不足」などの回答も多く見られた。
・ヤングケアラーとされる児童・生徒の4割が「相談相手がいない」6割は「相談相手がいる(母親が最多)」との回答だが、相談相手がいても改善・解決に結び付かないと考えられる。
・望むサポートして「特にない」との回答が上位だが、宿題や勉強・学習サポート、自由な時間、相談の場・人を望む回答も多かった。信頼して見守ってくれる、必要とするときに相談・支援してくれる「場所・人材の確保」が求められている。
◆周知・啓発
・実態調査結果を踏まえ、令和4年1月にはパンフレットやリーフレットを配布し、7月(ヤングケアラー支援条例制定後)には、市民向け新聞折り込みチラシを配布した。
・令和4年1~2月には、日本ケアラー連盟から講師を迎え、要保護児童対策地域協議会構成員や一般市民向けにヤングケアラー支援研修会・講演会を実施した。また市HPへの掲載の他、出前講座の実施を予定している。
◆相談・支援体制の整備
・令和3年12月にヤングケアラーに関する相談窓口、18歳以上のケアラー担当として総合相談支援室を設置。
・令和4年4月にはヤングケアラー支援マニュアルを作成。
・令和4年度は小中学校等を相談担当者がまわり、顔の見える関係づくりの強化を推進。
・教育機関、児童福祉、生活支援、高齢者福祉、障害者福祉部局等の関係機関による調整会議を適宜開催。
・既存の学習支援事業の利用ができるようにする。
◆条例制定
・令和4年2~3月に入間市ヤングケアラー支援条例(案)パブリックコメントを募集し、6月議会で提案、可決された。
・条例はヤングケアラーが個人として尊重され、心身の健やかな成長と自立が図られることを目指す。入間市、保護者、学校、地域住民、関係機関の役割を明記し、連携体制・支援体制を整備し、社会全体で子どもの成長を支えることを目的とする。
・第4条「市の責務」では、総合的・計画的な支援施策の推進、保護者・学校・地域住民等の関係機関との連携、実態把握により必要に応じた支援を講じることを義務付けている。
・第5条「保護者の役割」では、子育ての第一義的責任の認識と年齢・発達に応じた養育を努力義務とする一方、家族が抱える困難に応じた支援を求めることができるとしている。
・第6条「学校の役割」では、健康状態や生活環境等の実態を確認し、相談体制を整備するとともに、市や関係機関と連携して適切な支援に努めることとしている。
・第7条「地域住民等の役割」では、支援の必要性への理解、子どもや家族が孤立しないよう配慮し、市が行う支援に積極的に協力するよう努めることとしている。
・第8条「関係機関の役割」では、健康状態や生活環境等の実態を確認し、適切な支援機関に繋ぎ、市が行う支援に積極的に協力するよう努めることとしている。
・第9条「早期発見」では市、学校等が発見しやすい立場を認識し、早期発見に努めることとしている。
・第10条「支援」ではヤングケアラーの負担軽減、教育確保の確保が図られるよう、必要な施策を講じなければならないとし、市が行う学習支援事業の利用ができるようにしている。
・第11条「支援体制の整備」では、相談体制の整備と相談しやすい環境づくりに努め、福祉・医療・教育その他関連分野において連携体制を整備しなければならないとしている。
◆今後の取り組み(条例制定を受けて)
・市関係連絡会議:12課の課長職による会議を年1回実施
・周知・啓発:市HP掲載、FM放送、チラシ配布など
・講演、講義:ファミリーサポート提供会員、市職員、要保護児童対策地域協議会代表者を対象
・協力依頼:関係機関、事業者・団体、市内高校への訪問
・埼玉県ヤングケアラー支援推進協議会への出席
・ヘルパー派遣事業、ヤングケアラー支援コーディネーター配置の検討
◆取り組む中での課題
・個人情報の取扱い
・本人・保護者からの相談がない場合や支援拒否への対応
・ヤングケアラーから若者ケアラーに移行した場合の対応
◆おわりに・・(元)ヤングケアラーの声
・ヤングケアラーは大変さを感じる一方で、「家族の中でケアできるのは自分しかない」との想いもある。また支援者はケアしている家族には目がいくものの、ヤングケアラーに対しては目が行かず、「自分もつらいと言えない」「相談しても変わらない」という諦めにつながっていく。
・ヤングケアラーが求めるのは「同じ境遇の人(ピアサポート:共感・情報交換等できる人)」、「同じ年代の仲間(巣の一人の人として過ごせる場所・人)」、「伴走者(見守り、気にかけてくれる大人、家族調整、学習サポート、進路決定や将来の見通し等、ライフステージのサポート)」等の人、支援である。
・ヤングケアラーを「ケアをされる立場にある人」と認識し、一人の人として大切にされる経験ができるよう支援することが求められる。
【質疑応答】
質問1
ヤングケアラーの存在を市として認識した時期、きっかけは。
回答1
平成30年頃に市議会議員の一般質問で取り上げられたことを機に、執行部ではじめて認識した。
質問2
実態調査では「相談相手がいる」との回答が約6割だったが、相談者がいるならヤングケアラーにはならないのではないか。
回答2
相談相手は母が最多であり、相談しても家族のケアをやめていいわけではなく、解決に結び付かない。
質問3
ヤングケアラーの捉え方は様々であり、各家庭で手伝いの内容も異なる。ヤングケアラーが周知されることにより、子どもに家の手伝いをさせづらい状況が生まれないか。
回答3
ヤングケアラーには法的基準がなく、定義があいまいなので区別・理解が難しいところはあるが、「本来大人が担うべきケア」なのかどうかが判断の分かれ目となる。
質問4
調査回答の中では「日常生活への影響はない」と回答するケースも見られたが、どう解釈しているか。
回答4
ヤングケアラーは頑張る子が多く、中には無理をしても勉強時間を確保している子もいるので、そのように回答したとも考えられる。必要に応じて働きかける。
質問5
条例制定後のヤングケアラー認知度向上を踏まえ、今後も実態調査を行うのか。またその場合は記名式にする可能性は。
回答5
しばらく実態調査を行う予定はない。実態調査を記名式にすることも検討したが、教育委員会から記名式にすると実態に即した回答が出ないのではないかと言われ、見送った経緯がある。
質問6
厚生労働省のヤングケアラー啓発ポスターは、まずヤングケアラー当事者を労った上で、一人で負担を抱えなくてよいとのメッセージを打ち出している。市としての支援策においても同様の考えはあるか。
回答6
そうした視点はあるが、本人の意向だけ尊重するのではなく支援の必要性がある場合は働きかけていきたい。
質問7
ヤングケアラーと貧困の関連は。
回答7
保護者の仕事の状況や公的サービスにつながっていない場合は貧困状態にある場合も想定される。今のところヤングケアラーと貧困が結び付いた相談実績はないが、貧困との関連があることを想定して支援を進める。
質問8
条例制定時のパブリックコメント(学校がヤングケアラー早期発見に努めるとするならば、教師の負担が増えるので、学校の大改革が必要ではないか)を受け、学校との連携についてどのように期待するか。
回答8
学校における認知度の向上、情報共有を期待する。またスクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラー配置を検討していただきたい。
質問9
条例制定を受け、来年度の予算要求は。
回答9
家事支援ヘルパーの導入(週2回、2時間/回)、ヤングケアラー・コーディネーター配置を予算要求したい。
また充実した周知・啓発媒体(チラシ等)のための予算を確保したい。
質問10
日本ケアラー連盟のイラストを使う場合の許可、使用料はどうなっているか。
回答10
日本ケアラー連盟に連絡し、出典として名前を入れる他、©の記号を脇に明記する。
質問11
実態調査は学校が行い、相談窓口はこども支援課になっている。学校はヤングケアラー相談の第1ゲートではないかと感じるが、相談フローにおける位置付けは。
回答11
学校は相談窓口にはなれないが、把握・発見したヤングケアラーを相談につなぐ役割を担う。
【所感】
入間市がヤングケアラー支援の先行自治体であると認識していましたが、ヤングケアラー支援条例を制定したことは視察先で知りました。
条例制定は現市長の公約であり、トップダウンにより施策の推進が迅速化していると感じた。条例制定までの過程において、かなり細やかな相談・支援体制が構築されていました。
特に18歳以上の若者ケアラーに対しても支援対象とし、総合相談窓口につなぐ仕組みを構築したことは高く評価しています。
また学校は相談窓口とせず、「つなぐ」役割であることを明確化しているのも印象的でした。
今後の課題は、無記名の実態調査結果でヤングケアラーだと判断された児童・生徒やその家族を、相談・支援にどうつなげていくかということではないかと思います。
柏崎市においてヤングケアラーと判断されたのは現時点で12人ですが、潜在的にはまだ存在するのではないかと考えます。
引き続き周知・啓発と丁寧な対応をお願いしたいと思います。
ご対応いただいた入間市議会事務局および担当の皆様、ありがとうございました。
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