ヤングケアラー講演会
11月28日、柏崎市主催の児童虐待防止講演会・人権講演会を聴講しました。
今回のテーマは
「ヤングケアラー問題をどう捉え、どのように向き合っていくか」
講師は持田恭子 様 (一社ケアラーアクションネットワーク協会代表理事)
ご両親の介護、ダウン症のお兄さんのケアを行ってきた「ヤングケアラー当事者」としての経験をお持ちであり、2018年、ケアラーアクションネットワークCANを設立。1700人以上のケアラーと対話してこられたそうです。
◆ヤングケアラーとは
若い世代で家族のケアをしている子ども・若者の総称。大人が子どもを定義づけたりレッテル貼るために使われる言葉ではない。
日本では児童福祉法のもと、子どもの人権が保障され、対策が講じられているがヤングケアラーは法の網目から少し漏れている。
そのため総称としてヤングケアラーと呼ぶ。
これまで子どもが声を上げることがなかった。
人権を守る範囲を広げるという意味で、ヤングケアラーという総称を捉えていただき、何をすればどんな未来になるのか考えていきたい。
◆ヤングケアラーの人権を守るには・・
1,メンタルヘルスを整える
2,ウェルビーイング(身体的、社会的に満たされた状態)を高める。
大人が子どもをサポートすることが、大きな意味での取り組み。
ケア、介護等の負担をなくす、解消することを目的にするのではない。「必要であれば」法的支援として介入。
国の動き(今年11月)5回の有識者会議を行った。
◆ヤングケアラー支援体制強化事業【新規】
目的:ヤングケアラーが学業や部活や友達付き合いができなくなるまでケアを引き受けすぎないようにする。
対策:相談窓口の設置、公的支援サービスの導入、ピアサポート相談支援の財政支援、オンラインサロンへの財政支援、診療報酬の改定
スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー配置時間の拡充。
多職種連携
公的支援の介入
↓
目に見える介護には機能する
ヤングケアラーは介護を優先するあまり
・進学できない
・就職できない
・生活困窮
・健康が脅かされる
子どもはどう思っているのか?
◆ヤングケアラー(子ども)の心理
・世話は生活の一部
・家族の役に立っている
・家族が好きで世話をしたい
・家族の世話をしたくない(不満、暴力、虐待を受けている場合)、精神的に弱っている
・解決を望んでいない
↓
みんなはどうしているか知りたい
家族のことは好きだけど
家族との生活は変えたくないけれど
ストレスはたまっている
*一見矛盾しているようだが実は自然な感情
◆なぜ子どもがケア役割を引き受けるのか?(*イギリス研究者の論文より一部引用。)
ケアすることには多様な理由がある。
家族の中にケアを必要とする人がいる場合、
子どもは、ひとりで、あるいは主たる介護者となってケア役割を引き受けるか、
ほかの大人や兄弟姉妹が行っている介助は世話を手伝ったりしている。
・自発的に「ケアを引き受ける」ことを選択する子どもがいる(率先、積極的に引き受けるケース)
・家族の中で「一番動ける存在」として指名される子どもがいる(親、周囲の大人から「あなたしか頼れない」と言われる、若くて体力があり頼られる)
・家族が、子どもにケアを引き受けるように要求することもある(一部だが無自覚のことが多い。「お兄ちゃんなんだから・・」と指名される)
*家のことは誰にも言ってはいけない、と刷り込まれる子どももいる(非公式の世話)。
・障がいある子の世話をしている親が鬱状態になり、障がいのない子どもが世話をしなければならないケースもある。
無意識にケアを引き受けるため、「困っている」認識がない。
慣れてしまって、大したことないと受け止める。
誰かの助けは必要ないと、きっぱり断る子もいる・・
◆不適切と思われるレベルのケアに繋がる要因
1,家族の構造
2,病気や障害の性質とケアの必要性
3,公的支援の提供
◆日本ではどうなっているのか?
1,家族の構造
・ケアを担える大人がいない。ひとり親家庭など。(病気で働けない22.2%:もしかしたら子どもがケア?)
・夫婦共働きなので子どもが家族をケアする(両親が早朝家を出て遅くまで戻らない。夕方ケアすることが多い。)
・病気や障害のある家族が複数いる。(精神疾患ある母の話し相手になる、病気の親に代わり家事を引き受ける等)
・親に疾患や障害があり、子どもへの影響が理解できない。
年下の兄弟の世話をするだけでなく、年上の兄や姉の世話をすることも知ってほしい。
私(持田氏)にもダウン症、知的障害ある兄がいる。小学生の時は姉のように振舞っていた。
両親からの期待もあり、率先して世話をしていた。
2,病気や障害の性質とケアの必要性
・病気や障害の状態が安定しているか?
・病気や障害の状態が管理されているか?
・病気や障害が退行性であるか?
・病気や障害が定期的に発症するものか?
■病気の発症の進行スピード
■病気や障害の診断と受容におけるタイムラグ(知らされていない、親が自分の病気や障害に気付いていない)
■病気や障害のある人が、助けを求めることを選択したかどうか
■病気や障害のある人が、子どもが行っているケアのレベルを認識しているかどうか。
多くの場合、第三者の助けをあまり求めていない。
ケアは増えていくが、家族は必要としない・・ギャップ
3,公的支援の提供
国:公的支援サービスが提供されていない家族に、「適切な」公的支援を導入する
↓
サービスが提供されていても、効果的に機能していない
提供頻度が少ない場合がある
↓
家族は、自分達がどのような公的サービスを必要としているのかを知らないことがある
多くの人々が医療・福祉の仕組みを知らない。
入院患者が退院時、ヤングケアラーがいると判断されたら、ソーシャルワーカー介入に診療報酬を検討。
スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーの時間を拡充。
◆公的支援が導入できない背景
↓
・家族が申請しないと公的支援の必要性がわからない。
・公的支援の受給資格があるかわからない。
◆公的支援を望まない・・なぜ?
・支援自体を知らない。
・見知らぬ人に家庭に入ってほしくない。
・第三者からの支援を期待していない(過去にたらい回しの経験あり)。
・比較されて傷付いた経験がある(親の会などで比べられ、理解されない)。
・家族に公的支援が必要だと思わない。
・助けを求めたら家族と引き離されるのではないかとの不安。
◆目線を変えてみたら?
・10代の子にとって大人はどう見える?
→専門職との関わりは難しく感じる。
◆ケアの認識
・ヤングケアラーの子供たちは自分がやっていることがケアだと認識していない。
・情報不足:助けが得られることに気付かない。
・自分がケアしている認識に乏しい。
★子どもは見知らぬ人に相談しない。
まず自分の家族の状況を伝えるところから・・
◆当事者(子ども達)の声
・ヤングケアラー相談窓口には「絶対に電話したくない」
・相談することはハードルが高い。
*もし「大変だね」で終わったら?
*家族と自分が引き離されたら?
→相談できずに、危機的状況までケアし続ける。
◆ヤングケアラーへの情報提供
・例えば世話をしている障がいを持つ兄弟がパニック状態になった時・・
・誰もその状態について教えてくれないと、自分の中で何が起きているか推察、「自分のせい?」と思う。
→年齢に応じてわかるように説明すべき。子どもは敏感。わかっている、わかろうとする。
ヤングケアラーだけでなく、ケアを必要とする人の希望も聞く。
◆お手伝いとケアの違いは?
①個人的影響:子どもの生活
・小・中・高~と学年が上がるにつれて役割が増えていく。
・子どもが「大丈夫」と言ったとしても、しっかり様子を見る。
②社会的影響:他者との関係
・先生、友達との関係性(子どもにとって社会=学校)
・家のことは見せられない、わかってもらえないとの意識ある。
③教育発達への影響:学業や部活
・学業や部活ができない。
お手伝いとケアの判別は難しい。
日本は子どもが家族の世話をすることを賞賛されてきた。
◆最も大切なのは、子どもの声を聴くこと。
・自分もヤングケアラーかもしれない。
・重たい介護はしていないから、ヤングケアラーと名乗ってはいけない。
・自分で決めて世話しているので、ヤングケアラーと名乗ってはいけない。
◆なぜ相談しない?
→自分がどうしたいか言葉にする機会が少ない。
「どうしてほしい?」と聞かれても答えられない。
他者=友達:「大変だね」と言われ雰囲気が重くなる。
学校=先生:家の中のことには踏み込まれないだろう。
スクールカウンセラー:「自分を変えろ」と言われる。
=他人事のように扱われ、「自分の気持ちは専門家にもわからない」・・
スクールカウンセラーは、目の前にいるその子を何とかしたい。
でも子どもは家族のことを相談したい。
家族のケアをしたことがないと、カウンセラーもイメージできない。
子どもはすぐ察知する。「この人はわかってくれない」
◆ヤングケアラー当事者(女子高生)の声(動画紹介)
・精神疾患の母の世話をしている。
・先生には疾患についての知識を持ってほしい→どんな生活?どんなケア?
・生徒がいつもと違う雰囲気→「最近どう?」と声を掛けてほしい。
・ケア対象のことをむやみに聞かれ、「大変でしょ」と価値観を押し付けられると嫌な気持ちになる。
・自然に話してほしい。
・ヤングケアラーについてのアンケート調査は紙媒体だと、すぐに書き終える他の子の目が気になり、正確に記入できない。スマホ、ネットで回答できるようにしてほしい。(国のヤングケアラー全国調査は紙媒体→正確に把握されていないのでは?)
・スクールカウンセラーに相談する場合、担任に言わなければならず、授業も欠席しなければならない。
(ハードルが高く、相談に結びつかない)
◆子どもが本当に望むことは何か?
・どのような状況なのか話したい。ありのまま受け止めてほしい。
・大人が勝手に解釈するのはNG→二度と話さなくなる。
・自分で気が付く機会が乏しい。
◆家族へのケア
・子どもを抜きにした支援計画を立てないよう注意。
「これなら子どもの時間をつくれるに違いない」はNG。必ず子どもの声を聴く。
・テレビのイメージ:暗い部屋で母の世話をしている。→当事者は「電気をつければいいのに」演出が響かない。
◆感情的な影響
・矛盾の感情:公的支援を入れてもなくならない。
・十分な説明が必要。
・子どもはまだ経験や情報が足りない。
・ヤングケアラーは長期に渡り「あちらを立てればこちらが立たない」状態。
ヤングケアラーはライフチャンスの制限が課題とされているが、ライフスキルを獲得できるという利点もある。
◆ヤングケアラー 6つのライフスキル
①思いやり ②思慮深さ ③決断力 ④虚しさ ⑤理解力 ⑥寛容さ
◆親の人権とニーズへの配慮(先進国イギリスでの課題)
・養育能力が乏しいのか?
・親は何を必要とする?
◆ヤングケアラー支援の注意点
・家族のニーズに沿っているか?
・家族丸ごと支援が必要。
◆子どもの声を聴く3つのポイント
①子どもの捉え方、見え方、意見を尊重。今の声をそのまま受け止める。
②家族全員のニーズを考える。
③子どもに考える時間を十分与える。
◆家族丸ごと支援
・家族への効果的な公的支援
・子どもが何を必要としているかを知る相談力
・家族全員へのコンサル
・ニーズを把握する
・子どもは家族の世話をしたいか
・世話をしたいならどんなサポートが必要か
◆きょうだいヤングケアラー
・親から注意を払われない
・家族の否定
・前向きになれない
・親と同じにできない
・親代わりになってしまう
・ファミリーレジャーの経験ができない
社会には子どもを希望に向かわせる義務がある。
①家族 ②ヤングケアラー本人 ③周囲 への働きかけが重要。
◆ヤングケアラーズ探求プログラム(参加費無料)
・ヤングケアラー同士のオンライン交流。
・ヤングケアラーだった大学生がボランティアで参加。
・つらい時、自分の感情とうまく付き合う方法を知る。
・心を許し、好きなことの話をして、笑うことができる。
・自分だけじゃない。ヤングケアラーの自分を肯定。
・打ち明ける勇気につながる。
◆ヤングケアラー短編映画
「陽菜(ひな)の世界」
・きょうだいヤングケアラーがヒロイン。
・誤解や偏見のない世界・社会を目指したい。
・出演者「ヤングケアラーを見る目が変わった」
・学校~自治体の連携を求めたい。
◆ヤングケアラーをチェンジメーカーに。
・家庭や学校で教わらない障害や難病や疾患への対処法を知っている。
・正しい知識を学び、考え方や振る舞い方が変わると、身近に理解者が増える。
・社会からの誤解や偏見が減る。
<質疑>
Q1、6年ほど関わった子どもがヤングケアラーだった。介入した結果、中学生の今はケアしていた母親と離れて暮らしている。支援が間違っていたのだろうかと自問自答している。
A1、同じ状況の子と関わったことがある。子ども自身の話を聞こうとしても大人や専門職には心を開かない。ケアラー同士がつながり孤立を防ぐ仲間づくりが大切。探求プログラムをぜひ紹介してほしい。
Q2、地域の社会福祉法人だが、どんな関わり方ができるか?
A2、ゲームや遊びなどを通して、楽しい雰囲気で関わるようにする。同じ目標を定めて一緒にやっていくことが大切。
ヤングケアラーについては令和3年6月の一般質問 でも取り上げていることもあり、関心の高い問題ですが、今回の講演ではかなり具体的な内容に触れられていました。
またヤングケアラーを否定的に捉えるだけでなく、「人の心・痛みがわかる存在」として肯定している点も、非常に印象的でした。
貴重なご講演をいただいた持田恭子様には、心から敬意と感謝を表します。ありがとうございました。
子ども・若者たちが健やかに育ち、希望を持って人生を歩めるよう、取り組んでいきたいと思います。
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